累風庵閑日録

本と日常の徒然

ビーストンを二編

●お願いしていた本が届いた。
『怪魔山脈』 西條八十 盛林堂ミステリアス文庫

●今月から、新規の横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」を始める。月イチで二編ずつくらい読んでいこうと思う。このプロジェクトでは、正史作品の元ネタになったかもしれない海外小説に、ひとつでも出会えれば上出来である。ところがもしそういう作品があっても、具体的に作品名を挙げて~の元ネタと書いてしまうと、ネタバレになるだろう。公開するのは粗筋と、特に書きたいことがあればコメントや感想だけにして、作品の肝となる趣向は非公開で記録に残しておくことにする。

◆エル・ジ・ビーストン「シャロンの淑女」(大正十一年『新青年』)
 はっきり書かれていないがどうやら有名な探偵らしいホッグ・トレードスのもとに、ヒルダ・バセットと名乗る令嬢が訪ねてくる。宝石泥棒の冤罪を着せられた婚約者の汚名をそそぐため、力を貸して欲しいという依頼である。トレードスが調査に赴く間、友人のホレス・フランシー牧師が留守番を勤めることになった。やがてフランシーへトレードスから電話がかかり、出発前の指示とは矛盾する奇妙な指示を出した。

◆エル・ゼ・ビーストン「過去の影」(大正十三年『新青年増刊』)
 今では泥棒稼業から足を洗ったファーニー。気掛かりなのは、現役時代にある屋敷に忍び込んだ時、何者かに写真を撮られていること。ある日テッソー・クリミニという悪党がやってきて、脅迫をした。その写真と引き換えに、宝石泥棒の手引きをしろという。

 どちらの作品も、末尾に訳者として正史の名前が明記されている。ところがここに不思議なことがある。この作品は創土社の『ビーストン傑作集』にも収録されていて、そちらは妹尾アキ夫訳となっている。両者をざっと比べてみると、どうも同じ訳文のように見えるのだが。なんとしたことか。もう一点。それぞれの作品で著者表記が異なる辺り、当時のおおらかさというかいい加減さがうかがえる。以下、記録のために作品のメインのネタを非公開で書いておく。