累風庵閑日録

本と日常の徒然

『フレンチ警部最大の事件』 F・W・クロフツ 創元推理文庫

●『フレンチ警部最大の事件』 F・W・クロフツ 創元推理文庫 読了。

 安心安定のクロフツ印。押さえるべきポイントをひとつひとつ確認してゆく、地を這うような地道な捜査がなんとも面白い。フレンチ警部初登場の作品である。題名の通り、それまでの警察人生で出会った最大の事件に相応しく、捜査は何度も行き詰る。方針を見失って意気消沈するフレンチ。やがて新たな可能性が浮かぶと警部は再び活力を取り戻し、地道に着実に手がかりをたどり始めるのであった。

 捜査の主軸はそうやって地道なものだけども、物語の展開は地味派手ともいうべき広がりを見せる。フレンチ警部の捜査範囲はスイスやスペイン、その他のヨーロッパにまで及び、勤務中とはいえ大陸旅行を楽しんでいる様子が微笑ましい。

 真相は途中で気付いてしまったので意外さはなかったが、その趣向はいかにもミステリらしい「意外な真相」で、これも嬉しい。ただ、最後の決め手が(伏字)ってのはちと残念だったけれども。