累風庵閑日録

本と日常の徒然

『久山秀子探偵小説選IV』 論創社

●『久山秀子探偵小説選IV』 論創社 読了。

 梅由兵衛捕物噺がやけに面白い。傑作! というような意気込んだ面白さではないけれども。なにしろ長くても二十ページほどの作品ばかりだから、複雑な謎を仕掛けたり延々と推理を語る場面を描いたりはできない。ちょっとしたミステリ趣味が盛り込まれた、気の利いた小品シリーズである。作中で使われている、小ネタ的趣向の例をいくつか並べておくと、

・現場の遺留物リストから真相を推理する。
・互いに矛盾する二つの証言と現場の状況とから、ロジカルに犯人を導く。
・人物と駕籠の動きとから真相を見抜く。
・雪の上の痕跡から事件当時の状況を知る。
・関係者の住居と現場との位置関係からアリバイを検証する。
等々。

 個人的ベストは「金貸三枚目」で、ホームズ譚から引っ張ってきた趣向と落語ネタとトリッキーな真相とが、ぎゅうぎゅうに詰まっている。さすがにわずか二十ページでこの内容は、ちと窮屈。しっかり書き込んで中編くらいに仕立てたら秀作になったかもしれないと、惜しいことである。

 これで、第二期までの二十巻を読み終えたことになる。