累風庵閑日録

本と日常の徒然

『マタパンの宝石/鐘塔の天女』 ボアゴベ 春陽堂

●『マタパンの宝石/鐘塔の天女』 ボアゴベ 春陽堂 読了。

 昭和四年刊行の、探偵小説全集第十七巻である。「マタパンの宝石」については先日書いた。

「鐘塔の天女」
 本文の振り仮名によると、「とうのエンゼル」と読ませたいらしい。物語は、ノートルダム寺院の塔からの墜落死という派手な事件で始まる。それを探求するのが、「マタパンの宝石」と同様、働く必要のないご身分の遊民達。探求の動機は、そういう冒険が好きだから、だと。いい気なもんである。この作品では、そんな遊民が四人も集まり、さらにはヒロイン役として「鐘塔の天女」も仲間に加わる。

 中盤まではありきたりで他愛ないスリラーだし、犯人もすぐに目星が付く。誰が犯人かという興味は早い段階で脇に追いやられ、探求する側と悪漢一味との闘争劇が主題になってくるのである。私的捜査に携わる面々がみんな興味本位なせいか、全体を覆うトーンは明るく軽快。ところが、ページが進むに従って次第に悲劇的な色が濃くなってくるのは意外であった。こんなヘヴィーな展開か、と驚く。時折、姦通や恋の鞘当てなんぞの場面が殺人事件そっちのけで描かれるのが、いかにもおフランスらしい。