累風庵閑日録

本と日常の徒然

『物しか書けなかった物書き』 R・トゥーイ 河出書房新社

●『物しか書けなかった物書き』 R・トゥーイ 河出書房新社 読了。

 奇妙奇天烈な作品揃いの、秀作短編集。普通のミステリ短篇ならば、意外な結末を鋭い切れ味で提示して、ストンと理に落ちるってパターンがよくある。ところが、本書に収録されている作品群は違うのだ。なんかもう想定外、規格外で、なんだこりゃ? という展開が読者を煙に巻く。意外さの質が違うとでもいうのか、どこかで何かがずれているのである。

 ベストは「オーハイで朝食を」であった。自動車事故の調査が進む過程で、ある瞬間全く突然に、見えてしまうグロテスクな真相。よくあるテーマと言えば言えるが、物事の意味が判明して世界が変貌するときの落差が読み所である。

 ハードボイルドミステリを題材にした「いやしい街を…」や、ハリウッド流アクション映画を題材にした「ハリウッド万歳」には、単なるパロディでは味わえない逸脱がある。「犯罪の傑作」も似たようなもので、犯罪捜査に取り組む警官の物語が、典型的な犯人捜しミステリの枠を軽々と飛び越えてしまう。

 その他、「おきまりの捜査」、「階段はこわい」、「拳銃つかい」、「墓場から出て」、「予定変更」といった作品がお気に入り。つまり、収録作の大半を気に入ったということである。