累風庵閑日録

本と日常の徒然

『西尾正探偵小説選II』 論創社

●『西尾正探偵小説選II』 論創社 読了。

 結局通読することにした。疲れた。

 最も気に入った怪奇小説は、オチが秀逸な「墓場」であった。ところがこの作品、どうやらラヴクラフトが下敷きになっているそうで。そういうことなら、元ネタは創元推理文庫の全集で読んでいるはずだ。どうりで既視感がある。最も気に入ったミステリは、構成が整っている「誕生日の午前二時」であった。ところがこの作品、どうやら西尾作とは確定していないそうで。こうしてみるとやはり、西尾正本来の作風とは相性が合わないようだ。

 それでも、多少なりとも面白く読めた作品を挙げておく。「跳び込んで来た男」と「路地の端れ」は、夢や妄想が現実を侵食する不安定さを描いて秀逸。「幻想の魔薬」は、ホームズ譚にもある着想を一層グロテスクに拡張した魔薬のアイデアが面白い。これも海外作品が元ネタのようだけども。「地獄の妖婦」はオーソドックスな形式の怪異譚で、典型好きとしてはこういうのも嬉しい。