累風庵閑日録

本と日常の徒然

『林不忘探偵小説選』 論創社

●『林不忘探偵小説選』 論創社 読了。

「釘抜藤吉捕物覚書」と「早耳三次捕物聞書」と、両シリーズを全編収めた優れものの作品集である。前者のシリーズは、まず主人公の造形が良い。残された手掛かりと広い見聞とを基に、鋭い推理で事件を解決する名探偵である。藤吉は、桟に残された傷を”読み”、死体の下の土の湿り具合を”読み”、泥の足跡を”読む”。一方犯人の企みもまた、なかなかの読み応えである。密室殺人の偽装、犯行現場の偽装、長期間に渡る大掛かりな詐欺、逃亡するための奇天烈な仕掛け、等々。 

 気に入った作品は、ある描写の意味が終盤でぐるっとひっくり返る「梅雨に咲く花」、犯人設定にも犯行手段にも手がかりの出し方にも、濃厚なミステリ味が漂う「三つの足跡」、いくら時代物だからってそんなテキトーな、と思っていた描写が突然現実的な色彩を帯びる「槍祭夏の夜話」、誰もいないはずの二階へするすると吊り上げられる縊死体という不可能興味の「宙に浮く屍骸」、といったところ。 

「影人形」の謎も魅力的。寄席の楽屋廊下での殺人。力自慢の大男が、抵抗した様子もなくあっさり絞殺される。しかも犯行当時、現場には被害者以外誰もいなかった。真相はどうも釈然としないけれども。 

 ネタバレを避けるためにどこがどう気に入ったかは書かないが、「雪の初午」もいい感じ。コメントは付けないが、その他の作品もたいていミステリ趣味が漂っていて、気に入った。 

 ミステリの出来栄えとは別の方面で突出しているのが「巷説蒲鉾供養」で、まったくもってこの作品は異様である。それに輪をかけてとんでもないのが「悲願百両」で。なんと怪奇小説の名作(伏字)の翻案なのだ。理知と現実との捕物シリーズが、ふいっと怪奇な幻想に逸脱する。しかもこの作品、換骨奪胎ぶりが実にお見事で、なんとも嫌な不気味な怪奇編に仕上がっている。 

「早耳三次捕物聞書」シリーズの四編も、それぞれちょっと気の利いた趣向が盛り込まれており、ゴキゲンである。 

●午後イチでジム。筋トレと有酸素運動とで汗を流す。このところ体重は目標値前後をキープできている。この状態を今後も維持できれば、六月から再開して真面目に取り組んできた減量は達成できたと言っていい。もうしばらく様子を見る。 

●この日記をアップしてから、電車に乗って東京に出る。オフ会があるのだ。