累風庵閑日録

本と日常の徒然

『月光殺人事件』 V・ウィリアムズ 論創社

●『月光殺人事件』 V・ウィリアムズ 論創社 読了。

 なんともオーソドックスな、外連味のない謎解きミステリである。本書に書かれてあるのは、たとえば天才型の探偵像や、関係者の行動を時刻毎に事細かに追及する捜査である。物語の進展に伴って次々と新事実が浮かび上がり、嫌疑を受ける対象が次々と入れ替わってゆく展開はいかにもありがち。他にも、よくある展開がちらほらと見受けられる。いやはや、まっこと型通りで。こういうのは、典型好きとしては嬉しい。

 犯人の偽装手段は、実に自然で上手い。作者が仕掛けたミスディレクションは、巻末解説で言われてみればなるほど巧みである。同じく巻末で指摘されているように、解決部分の心細さがちと残念だけれども、結論としては全く満足。この人の作品はもっと読みたい。

 ところで、同じ作者のスパイスリラー「蟹足男」が気になり始めた。戦前に、長編が一作だけ訳されているという。確認すると、以前湘南探偵倶楽部さんから購入した『緑の自動車』に、翻訳が収録されているではないか。機会があれば読む。