累風庵閑日録

本と日常の徒然

『牧逸馬探偵小説選』 論創社

●『牧逸馬探偵小説選』 論創社 読了。

 機知と捻りと、怪奇と諧謔と、それにちょっぴりの皮肉。作者の才気がみなぎる、読んで楽しい好短編集であった。収録作は一部の例外を除いてごく短いものばかりで、創作だけでも三十編以上と数が多い。気に入った作品も多く、それら全てにコメントを付けるのはしんどいので、省略。

 以下、こっちの方が長くなりそうな脱線。巻末解題によると、第一短編集『都会冒険』に「怪異を積む船」という作品が収録されている。これは創作ではなく、フレデリック・デエヴイスが書いた作品の翻訳で、もとは『新青年』に掲載されたという。この作家については随筆「米国の作家三四」でも言及され、「構成の才が見られ」ると評されている。

 さて、この「怪異を積む船」だが、後年になって主婦の友社の「TOMOコミックス名作ミステリー」の一巻として劇画化されている。作画はいけうち誠一で、題名はそのまま『怪異を積む船』だ。作者表記はフレデリック・デービスである。巻末解説ではなぜかヘンリー・デービスという表記になっているのが不思議だけれども。

 このシリーズは作品の選択が独特で、昭和五十年代の発行なのに、マッカレーの『ふたごの復讐』や『地下鉄サム』、小酒井不木の『少年科学探偵 消えたプラチナ』なんかがラインナップに入っている。『怪異を積む船』も、掲載当時は好評を博したそうだが、さしてメジャーとも思えないのになぜ選ばれたのか。いつか機会があれば読んでみたい。……脱線なので、この話題は特に結論の無いまま終わる。

 

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