累風庵閑日録

本と日常の徒然

『死は我が隣人』 C・デクスター ハヤカワ文庫

●『死は我が隣人』 C・デクスター ハヤカワ文庫 読了。

 五百ページ以上あるそこそこ大部の作品だが、さほど長さを感じず中だるみもせずに、面白く読めた。要因はいくつかある。最大のポイントは、訳文が性に合っていたこと。途中でひっかからずすいすいと読めた。こういうのは気持ちいい。相性の悪い文章だと、同じ個所を何度も読み直さないと文意が頭に入ってこなかったりする。

 もう一つの要因は、事件そのものが起伏に富んでいること。始まりは、一見地味で平凡な射殺事件である。だが捜査が進むにしたがって、当初の見込みとは全く異なる可能性が浮上し、関連する事件が起き、様々な可能性が派生してゆく。

 その変転の面白さは、地道な警察捜査小説とは一味違う。やはりモースのキャラクターに負うところが大きい。中盤である仮説を思い付き、そうだ!そうだ! と心中で叫ぶモース。そんな姿を読むと、いったいどんな捻りが展開されるのかとわくわくする。もっとも、読了してみると真相にはさほど感銘を受けなかったけれども。

 仮説を構築する以外のモースの造形も、ルイスとの掛け合いを含めて相変わらず面白い。さらにに今回は、モースの老いと病気とが描かれており、何やら身につまされるものがある。