●『名探偵ルパン』 M・ルブラン 論創社 読了。
訳者保篠龍緒が、ルブランの非ルパン作品を勝手にルパンものに仕立てたという、あまりと言えばあまりに自由すぎる作品集。訳者/創作者の姿勢の是非はともかく、こんな珍品を読めるということが、本書のまず第一の意義である。
「赤い蜘蛛」
富豪ドルサクの色気違いぶりが目立つが、事件そのものはわりと平凡。そのおかげもあって、完全無欠の侠賊ルパンの活躍が際立つ。というより、ヒーローを描くことこそが作品の主眼であって、それ以外の細けえ事を気にしてはいけないようだ。
重要な物証もキーとなる証言も(伏字)の体たらく。なんだこりゃ。原作の「赤い数珠」は、完訳の偕成社版を買って積んである。本来ルパンが登場しないこの作品で、上記のいい加減さおおらかさがどのように描かれているのか。読んでみたくなった。
「刺青人生」
孤児である主人公バルタザールの元へ、誰それがお前の親だという情報が次々にもたらされる奇天烈な展開。それどころか、主人公はさらに突拍子もない運命に翻弄される。一種のホラ咄である。原作の完訳版が偕成社で現役のようだけども、「赤い数珠」と違って、こちらは保篠版で満腹してしまった。
「鐘楼の鳩」
原作はルブランとは別の作者エルベ・ド・ペルーアンが書いたルパンのパスティシュで、出てくる名前はルパン(LUPIN)ではなくパンリュ(PINLU)だそうな。それを保篠御大が勝手に「ルブランのルパンもの」に仕立ててしまったという、ちょっとどうかしている作品である。宝物の在処を示す暗号の物語が短いページにコンパクトにまとめられていて、それなりに読ませる好編。
●ルパンを朝のうちに読み終え、その後午前中は横溝正史をちょっとつまみ喰い。午後からは光文社文庫の江戸川乱歩を手に取った。収録作の大半がジュブナイルなので、さすがにこの歳になって一気に通読するのはしんどい。来年までかけて細切れに読んでいくことにする。今日は「奇面城の秘密」を読んだ。ポケット小僧大活躍の巻。それはいいけど、内容薄いな。