累風庵閑日録

本と日常の徒然

「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」第六回

●横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第六回をやる。

◆「サムの真心」 J・マッカレー(昭和三年『新青年』)
 地下鉄サムは大道演説に心を打たれ、真心を発揮する機会を探し始めた。そんな折、サムの縄張りである地下鉄で、何物かが不埒にも縄張り荒しの掏摸を働いた。

◆「サムの禁煙」 J・マッカレー(昭和三年『新青年』)
 煙草の害を謳う新聞広告に影響されて禁煙を決意したサム。クラドック探偵にも、下宿屋のおやじ鼻のムーアにも、禁煙なんか続くはずがないと断言される。意地になったサムは、続くかどうかで両人とそれぞれ賭けをする。

 地下鉄サムのシリーズは、その昔創元推理文庫で読んだことがあるが、内容はちっとも覚えちゃいない。久しぶりに読んでみるとどうやらこのシリーズ、主人公が持ち前の特殊能力で問題を解決するってのが基本構成のようで。問題設定のバラエティと解決手段の工夫とが読み所か。

 それと同じくらいのウェイトで、軽快な会話の面白さも読み所。特にクラドック探偵との掛け合いがお約束のようで。ちょっとした人情コントのようなこんな気楽な読み物も、たまに用いるなら悪くない。来年あたり、これも横溝訳である平凡社版を読んでみようかと思う。

◆「液体幽霊」 W・J・アルデン(昭和五年『新青年』)
 幽霊の正体は気体であると主張する科学者ブルウイン教授。ある日、教授が一本の瓶を持って、語り手の私のもとを訪れた。捉えた幽霊に圧力をかけて液体にして、瓶に閉じ込めたという。後事を託された私が、教授の死後その瓶を開けてみると……

 なんだこりゃ。教授が語る奇天烈な幽霊論が、どうしてこの結末につながるのか。よく分からないのが分からないなりに、宙ぶらりんの面白さがある。