累風庵閑日録

本と日常の徒然

『この湖にボート禁止』 G・トゥリーズ 福武文庫

●『この湖にボート禁止』 G・トゥリーズ 福武文庫 読了。

 相続した湖畔の家に引っ越してきた、主人公の少年と妹と母親の三人家族。受け継いだ品に含まれていたボートを湖に漕ぎ出したところ、後になって近所の地主に怒鳴り込まれた。湖にボートを浮かべるのを禁ずるというのだ。地主の態度に不審を覚えた少年と妹とは、仲間と一緒にその秘密を探りにかかる。

 予想外の拾い物であった。まあジュブナイルだから、と期待しないで読み始めたら、これがなんと面白いではないか。人物造形は分かりやすく、ストーリーも分かりやすい。後半の転調も、クライマックスの盛り上がりも、確かなもの。きちんと伏線も効いている。背景となる過去の物語もちょいと魅力的。そしてとにかく、文章が面白い。思わずにやりとするような表現や、感心するような視点が散見される。作者の才気がこぼれるようだ。

 訳者あとがきによると、この作品はシリーズになっていて続編が四作あるという。調べてみると、そのうちの一作が「黒旗山のなぞ」という訳題で出ているそうな。読みたいと思ってちょっと探してみたが、近隣の図書館にもないし古本でもすぐには見当たらない。ううむむ……