累風庵閑日録

本と日常の徒然

『角田喜久雄探偵小説選』 論創社

●『角田喜久雄探偵小説選』 論創社 読了。

 前半、明石良輔の事件簿では、やはり「笛吹けば人が死ぬ」がずば抜けている。アンソロジーやなんかで何度か読んだ作品だが、再読しても面白い。「青い雌蕊」は、結果はどうあれ主人公の地道な捜査を面白く読んだ。

 後半で面白かったのは、「毛皮の外套を着た男」の素朴なミステリ趣味、「あかはぎの指紋」の捻り、「現場不在証明」の(伏字)という力点のずれ、「死体昇天」のじわじわと深まってゆく謎、ってな辺りであった。

 収録作中のベストは「蒼魂」で、飛んでいる飛行機から乗員乗客五人全員が消失するという、飛び切りの不可能興味が秀逸。さらに、捻りを積み重ねる展開と意外な真相とを伴って、読み応え十分である。真相は薄々予想できたけれども、この内容ならば立派に「意外な真相」の範疇である。