累風庵閑日録

本と日常の徒然

『不思議なミッキー・フィン』 E・ポール 河出書房新社

●『不思議なミッキー・フィン』 E・ポール 河出書房新社 読了。

 小説を書いていると登場人物が勝手に動き出す、なんてなことを作家が語っているのを目にすることがことがある。ところがどうやらこの作品では、登場人物も周囲の状況も物事のタイミングも、完全に作者の意のままになっているようだ。小説を読んで楽しむというより、作者が物語を転がす様子を眺めて楽しむ作品である。まるで「ピタゴラスイッチ」を眺めているような。

 内容としては、デフォルメされた登場人物達が繰り広げる、ドタバタコメディめいた冒険活劇。こいつは面白い。主人公が友人のために良かれと思って仕組んだ小細工が、そもそものきっかけ。警察の拡大解釈と勘違いと早合点とで、事態は勝手に大きくなってゆく。冒頭で作者自身が「紋切型からはずれた」と宣言している通り、先の展開が全く見えない面白さよ。

 巻末の訳者あとがきによれば、シリーズキャラクターであるホーマー・エヴァンズものの訳出が、「目下鋭意準備中」だそうで。十一年前の話である。ところが実際は、その後刊行されたエリオット・ポールの作品は非ミステリの一冊だけのようだ。企画が立ち消えになったとしたら、残念なことである。