累風庵閑日録

本と日常の徒然

『瀬下耽探偵小説選』 論創社

●『瀬下耽探偵小説選』 論創社 読了。

 乱歩の「情操派」という分類に、ねちこい作風かと身構えていたのだが、実際読んでみると全然そんなことはなかった。作品はバラエティに富んで、飽きずに読める。ロジック趣味もちょいちょい見られて、好みにも合っている。

 本格ミステリのパロディとも言えそうな「四本の足を持った男」、主人公の造形と行動とが際立つ「めくらめあき」、土俗的な味わいに推理を絡めた「R島事件」、不可能興味と奇天烈な殺人手段で読ませる「呪はれた悪戯」、よく整った倒叙ミステリ「シュプールは語る」と、秀作が多くて嬉しい。

 長くなるのでコメントは付けないが、他に面白く読んだ作品は、「海底」、「女は恋を食べて生きてゐる」、「欺く灯」、「墜落」、「幇助者」、「罌粟島の悲劇」、といったところ。

 ところで巻末解題によれば、瀬下耽の作品集は『別冊・幻影城』の刊行予定に含まれていたそうで。それが実現しないまま三十四年、ついに一冊にまとめられた作品集が、本書である。そういう文章を読むとつくづく思う。大勢の作家の作品集を刊行し続ける論創ミステリ叢書は、なんと有意義な営みであることか。読者の好みによって面白い詰まらないは当然あるけれども、読めないことには始まらないのだ。

●税務署に出かけて、確定申告の書類一式を時間外収受箱に放り込んできた。やれやれ。今回は六桁の還付金が戻ってくる。一時的に裕福になると勘違いしそうになるが、もちろんそうではない。払い過ぎた税金が戻ってくるのだから、マイナスがゼロになるだけである。