累風庵閑日録

本と日常の徒然

『呼びとめる女』 鮎川哲也 角川文庫

●『呼びとめる女』 鮎川哲也 角川文庫 読了。

 「鮎川哲也名作選」の第十巻である。安心安定の鮎川印。シンプルな手がかりでズバリと決まる結末は、読んでいて気持ちがいい。

 収録作中のベストは表題作「呼びとめる女」で、切れ味とオチの付け方とがお見事だし、題名も効いている。「月形半平の死」は、巻末解説によるとどうやらクイズ企画だったようだが、ミステリクイズにありがちな薄っぺらさは感じなかった。この作品も決め手が秀逸。

「霧の夜」で使われている(伏字)ネタはどこかで読んだような気がした。それもそのはず、この作品は後に長編化されて「鍵穴のない扉」になったそうな。機会があればそっちを再読してみたい。「牝の罠」の犯人設定はいただけない、と瞬間的に思ったのだが、ゆっくり考えてみるとだんだん秀作に思えてきた。犯人を絞り込む過程が、なんとなくコリン・デクスターを連想する。