ちと癖のある文章が、なぜかこちとら性に合い、季節感あふれる情景の、描写がいちいち面白く、言ってはならぬ顎十郎、言ってしまえば際立つ剣技、出くわす事件のその肝は、奇怪不可解不可能興味、解決部分の作劇法は、相も変らぬ都筑調、読者が先に真相に、到達できるはずもなし、だからといって否定は野暮、そういうものだと受け入れればよろしい。
気に入ったのは以下の作品。
「三味線堀」
あけっぴろげの橋の上で、落雷に驚いてうずくまった男。他人が近づいた時にはすでに刺殺されていた。一番初めに駆け付けた人物がとっさに刺したのでないとすれば、はたして下手人は。
「貧乏神」
他人が出入りできぬ座敷牢の奥で殺されていた男。そう落とすか、という結末も記憶に残る。
「さみだれ坊主」
路地に逃げ込んで失踪した盗賊。ほほう、と思える犯人設定も良い。
「閻魔堂橋」
キーとなる言葉の解釈に、ちょっと感心した。