累風庵閑日録

本と日常の徒然

『サイモン・アークの事件簿I』 E・D・ホック 創元推理文庫

●『サイモン・アークの事件簿I』 E・D・ホック 創元推理文庫 読了。

 サム・ホーソーンのシリーズでは、不可能興味と事件に対する興味とが、ほぼ一体となっていた。ところがこのサイモン・アークのシリーズでは、ひとつの作品中に複数の焦点がある場合が少なくない。こういうのがシリーズの特徴なのだろうか。

 たとえば「魔術師の日」の、施錠されたクロゼットの謎と、墜落した飛行機に関する冒険。「霧の中の埋葬」の、手を触れずに人を殺す怪人物の謎と、その怪人に付け狙われている男の顛末。「奇蹟の教祖」の、車ごと消失した人間の謎と、新興宗教の教祖にまつわる事件。長編ならいくつも山場があっておかしくないと思うが、数十ページの短編でこういった構成では、どうも興味が分散してしまうようだ。創元推理文庫の五巻は全て読むつもりだが、ずっとこの調子ならあまり気分が盛り上がらないかもしれない。

 というように少々ネガティブな感想を持ったが、その一方でやっぱりホック、伏線沢山の作品はそっち方面の読み応えがある。「悪魔撲滅教団」が収録作中のベスト。きわめてシンプルかつ決定的なロジックがお見事。(伏字)というのがちょっと残念だけども。他に、伏線がきちんとしていて私好みの作品が「地獄の代理人」、「狼男を撃った男」、「妖精コリヤダ」、「キルトを縫わないキルター」といったところ。