累風庵閑日録

本と日常の徒然

『宮原龍雄探偵小説選』 論創社

●『宮原龍雄探偵小説選』 論創社 読了。

 収録作には、トリックのアイデアで勝負する作品が多い。終盤で種明かしだけが投げ出すように提示され、伏線も解明に至る筋道もあまり書かれていないそんな作品は、どうも胸に響かない。(以下、もう少し強い表現でいろいろネガティブに書いている部分は全て非公開)

 ミステリマニアの熱が感じられて微笑ましい部分はあるけれども、熱だけでそうそう付き合えるものではない。読み進めるのがなかなかしんどく、読了までに四日もかかってしまった。

 それでもまるでつまらないわけではない。面白く読めた作品を挙げておくと、冒頭の謎が強烈な「三つの樽」、シンプルなアイデアが秀逸な「新納の棺」、多少なりとも伏線のある「髭のある自画像」、トリックミステリを一歩引いた視点から眺めているような「ある密室の設定」といったところ。

 収録作中のベストは「世木氏・最後の旅」であった。きっちり伏線がちりばめられているし、地道な捜査の面白さもある。なかなか凝った真相も嬉しい。真相でちと苦しい部分は、作者の持ち味ということで。作品の質とは関係ないけれども、こんなのも書くのか、という驚きもある。

●書店に寄って本を買う。
森下雨村 小酒井不木 ミステリー・レガシー』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫
『11 eleven』 津原泰水 河出文庫