累風庵閑日録

本と日常の徒然

『死者との誓い』 L・ブロック 二見文庫

●『死者との誓い』 L・ブロック 二見文庫 読了。

 マット・スカダーシリーズの第十一作である。まず、事件が面白い。通り魔的な射殺事件で、容疑者はすぐに逮捕された。解決があまりに早く単純だったので、警察は捜査の常道である被害者の身辺調査をやっていない。ところがスカダーがその辺りを調べ始めると、じわじわと謎の部分が見えてくる。地道な調査の過程を読む面白さがある。

 また、人物造形の面白さもなかなかのもの。否応なしに人間は変わる。成長して、あるいは年老いて、あるいは病を得て、環境の変化に伴って。自分も変わるし相手も変わる。人間が変われば、互いの関係もまた変わってしまう。そういった変化の模様を、静かに丁寧に積み重ねてゆくのが、読んでいてしみじみと胸に迫る。

●あまりにも面白かったので、スカダーシリーズで唯一文庫になっておらず持っていなかった『すべては死にゆく』を、ネット古書店に注文してしまった。