累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ソーンダイク博士』 フリーマン 改造社

●『ソーンダイク博士』 フリーマン 改造社 読了。

 世界大衆文学全集の第六十巻である。ストーリーの起伏も真相の意外性もさほどではない。興味の中心は、博士が何に気付いてどういう検証実験をしたかにある。これがどうも、やけに面白い。結末に至って初めて、調査のときの博士の言動の意味が分かるのが、散りばめられた伏線の意味が明らかになるのと同種の面白さである。

 収録の長編「赤い拇指紋」は先日読んだ

 中編「謎の靴跡」は、いかにもソーンダイク博士シリーズらしい好編。博士は現場に残された靴跡を「読み」、警察が見逃した大量の情報を得る。法廷にて、知り得た新事実を次々と披露する博士の弁論は実に鮮やかである。その盛り上がりは、博士の優秀さよりもむしろ、警察や検死医のうかつさを際立たせる。

 他の短編も安定の面白さで、読んで満足。「青色の甲虫」の、エジプト学の専門家には読めないエジプト文字という着想にちょっと感心した。