累風庵閑日録

本と日常の徒然

『クイーン警視自身の事件』 E・クイーン ハヤカワ文庫

●『クイーン警視自身の事件』 E・クイーン ハヤカワ文庫 読了。

 引退したリチャード・クイーン元警視が主人公の、スピードと起伏とで読ませる作品である。けれども単純なスリラーではない。結末に至って、前半のとある描写の意味が分かる。意味が分かると、その技巧も分かる。また終盤に提示される、なぜ(伏字)のか? という問いも、ちょいと気が利いている。この辺りの展開には感心した。

 サイドストーリーも軽んじてはいけない。御年六十三歳のリチャードが演じる、なんと、嬉し恥ずかしメロドラマ。重大な出来事を「事件」と称するなら、これはまさしく警視自身の事件なのである。二重の意味を持つ題名にほほう、と思うが、原題の「case」にそんなニュアンスがあるかどうかは知らない。

 上記の「事件」も含め、全体が老いと再生の物語になっている。警察組織に頼らない独自の調査に取り組むリチャード。彼の協力要請に応じて、生きる目的を見失いつつあった退職警官達が何人も、勇んで駆け付ける様は胸が熱くなる。