累風庵閑日録

本と日常の徒然

『幻の名探偵』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●『幻の名探偵』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 読了。

 以下の二編が特に秀逸。甲賀三郎「拾った和銅開珍」は、落語か昔の笑い話にでも出てきそうなシンプルなネタが好ましい。葛山二郎「古銭鑑賞家の死」は、いくつもの伏線がちょっと感心するような真相に収束する。

 守友恒「青い服の男」は、(伏字)タイプの真相は好みではないが、意外性は十分。

 あわぢ生「蒔かれし種」、山下利三郎「素晴しや亮吉」、海野十三「麻雀殺人事件」の三編は、とぼけた明るさがあって読んでいて楽しい。探偵役は順番に、深刻な悩みを抱えて懊悩していても、一晩寝るとすっかり気分が晴れてしまう秋月圭吉。事件の捜査の一環のはずなのに、猿をからかうのにすっかり夢中になってしまう吉塚亮吉。麻雀屋で隣の卓にいる若い娘の白い襟足を盗み見て、満更でない気持ちになる帆村荘六。愛すべきキャラクター達である。

●ミステリー文学資料館が、この七月で閉館するそうな。となると、資料館編のアンソロジーも刊行されなくなるのだろうか。五月に最新刊が出たあと、現在次の巻までは準備されているということらしいが。