累風庵閑日録

本と日常の徒然

『誰そ彼の殺人』 小松亜由美

●『誰そ彼の殺人』 小松亜由美 幻冬舎 読了。

 収録の四編のうち、三編は初出誌で読んでいる。今回はその時の感想をほぼそのまま再録する。

「恙なき遺体」
 現役の解剖技官でなければ書けない、様々なディテイルが実に面白い。だが、それはあくまで装飾としての面白さである。肝心の、ミステリとしての内容はどうか。

 これがなんと、予想を上回る面白さであった。異様な犯行現場と死因不明の変死体というのがメインの謎。その死因の意外性は十分だし、なにより伏線沢山なのが好みに合っていて嬉しい。まさかこれも伏線だったは、という意外性もある。犯人は誰かという興味については、作者が書きたいポイントではなかったのだろう。なぜそう判断したかは終盤の展開にかかわるので、ここには書かない。

「誰そ彼の殺人」
 これは分からん。(伏字)する意味は何か。一度説明してもらって分かった気になったのだが、今回再読してみるとやはり意味が分からん。

 で、しばらくぐるぐると考えて、ようやくそれなりの解釈が思い浮かんだ。自分のために非公開で書き留めておく。

「蓮池浄土」
 この作品も、伏線の意味が分かった時のそういうことね、という面白さがなかのもの。また、ある状況が伏線であると同時にレッド・ヘリングの役割も果たしていることに感心した。

安楽椅子探偵、今宮貴継」
 十五ページしかないから、内容はほとんどエッセンスだけ。提示された謎はシンプルだし、手がかりはかなり明瞭だしで、さすがにこれは途中で正解が分かった。むしろ語り手の梨木楓が分からなかったのが不思議なくらい。結末のとある記述に目が止まる。これはもしかして、続編への伏線ではないのか。