累風庵閑日録

本と日常の徒然

『殺す・集める・読む』 高山宏 創元ライブラリ

●『殺す・集める・読む』 高山宏 創元ライブラリ 読了。

 「推理小説特殊講義」という副題が付いている。こいつは手強い。私の読解力では少々手に余る。さあて、全体の三~四割くらいは理解できただろうか。理解できたと思い込んでいる部分については、興味深い視点が次々と提示されてなかなか面白い。なにしろあまりにも広範な内容なので、どこがどう面白いのか、この日記のために言語化するのはなかなか困難なのであるが。

 どうにかこうにか、第一章「殺す・集める・読む - シャーロック・ホームズの世紀末」のごくごく一部を整理してみる。ホームズ譚の連載が始まった十九世紀末、世界的大都市ロンドンは、生と死の二重性を持っていた。ビクトリア朝文化の爛熟と死亡率の増大。繁栄と死のロンドン。都市生活者の流入貧困層の激増に直結し、衛生状態は極度に悪化して疫病が蔓延した。そこには中世のペスト禍の遠い記憶も、暗い陰を落とす。

 都市に滞在する富裕層は屋敷に閉じこもり、華美な屋内装飾のもとで外の世界に吹く死の風をひたすら無視することに努めた。そこで愛好されたのがミステリである。突然もたらされた理不尽な死は、論理によって解明され、駆逐される。生が必ず勝利すると分かっているなら、もはや安全な娯楽と化した死はできるだけ陰惨で刺激的な方がいい。

 かくしてコナン・ドイルは、様々な死の様相を描き出すのであった。「四人の署名」の笑う死体、「入院患者」の羽をむしられた鶏のように吊るされた縊死体、「ブラック・ピーター」の甲虫のように銛で壁に留められた死体、等々。

 これだけの内容が、わずか十ページにぎゅうぎゅうに詰め込まれているのだ。大変な密度である。

●午前中に高山宏を読み終え、昼前には電車に乗って街に出る。かつての飲み仲間と再会し、昼酒をかます