累風庵閑日録

本と日常の徒然

『消えた玩具屋』 E・クリスピン ハヤカワ文庫

 ●『消えた玩具屋』 E・クリスピン ハヤカワ文庫 読了。

 謎の設定に関しては、ちと戸惑うような構成である。中盤までは、そこで何が起きたか、という謎がメインとなっている。それ以降は、誰がそれをやったかという、前半では背後に退いていた謎が扱われる。いったい何故、途中でいったん仕切り直すような構成にしたのか。効果のほどがよく分からない。謎への興味で読み進めていた気持ちが、途中で冷静になってしまうのである。

 真相はシンプルで、ちょっとした不可能興味を上手く処理している。作品全体を覆うコメディの味わいも上々で。主人公フェン教授をはじめとする登場人物達の造形と会話、やたらに爆発音をたてるリリイ・クリスティン三世号、繰り返される追いかけっこ、ってな要素がなかなか楽しい。五人のうちの一人が「彼」だったというのも、ズッコケるような可笑しさがある。結局、終わりよければ全てよしってなものである。

 ところで本書は読者に対して、虚構を虚構として積極的に受け入れて楽しむことを求めているようだ。真相に付随する状況は、(伏字)なんて作り物めいたもので、ある種のお約束として提示される。また、会話中にクリスピンの名前が二度も出てくる。

 偶然の扱いにも虚構性が漂っているようだ。探偵小説における偶然の出会いを批判する評価軸を、からかうような記述がかなり早い段階で出てくる。その後、ぬけぬけとした偶然の出会いが何度も描かれる。

●いい機会だから、TOMOコミックス名作ミステリー、劇画/小島利明の『オモチャ屋殺人事件』も読んでみた。重要でない要素をあれこれ省略し、ストーリーを思い切って簡略化してある。それに伴って、読者に情報を提示する手順も変わっている。

 最も大きな違いが、犯人の扱いで。骨格こそ小説と同じだけれども、犯行の手順、罪を逃れるための工作、そしてフェン教授に気付かれる手がかりまで、ちょいちょい改変されている。

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