累風庵閑日録

本と日常の徒然

『眺海の館』 R・L・スティーヴンソン 論創社

●『眺海の館』 R・L・スティーヴンソン 論創社 読了

 時代がかった台詞回しと、民話めいた素朴さと、一筋縄ではいかない少々の皮肉と、デフォルメの効いた人物造形と。本書を読んで感じるのは概ねそんなところ。ミステリの周辺書といった内容で、論創海外ミステリで出すのはちと不思議である。だが、何しろクロフツの宗教書を出したレーベルである。実は不思議でもなんでもないのだろう。

 以下、読み所と言えそうな要素を書いておく。表題作「眺海の館」は、敵の襲撃が迫るにつれて高まってゆくサスペンス。「マレトロワ邸の扉」は、不可解な状況設定に追い詰められてゆく主人公の混乱。「神慮はギターとともに」と「宿なし女」は、人物造形。具体的には前者の、芸術に身を捧げて生きるレオンの快活さと、後者のオイドの、分かりやすい愚かさ浅はかさである。

 二十の掌編から成る「寓話」は、皮肉なオチのもの、にやりとするもの、想像をめぐらす余地のあるもの、さっぱり理解できないもの、とバラエティに富んでいて、収録作中では最も面白く読んだ。