累風庵閑日録

本と日常の徒然

『正木不如丘探偵小説選II』 論創社

●『正木不如丘探偵小説選II』 論創社 読了。

 長編「血の悪戯」がなかなか快調。大平刑事とダンサー宵の明星との会話が、思いがけず軽快でさくさく読める。どことなく漂うとぼけた味わいも好ましい。大平の隣室に住んでいる、病院からこっそり脳みそを持ち帰って研究している医学生なんか、いいキャラクターである。

 昭和五年の作品で、血液型が医学的新知識として扱われているのがいかにも時代を感じさせる。アーサー・B・リーヴのクレイグ・ケネディシリーズで、これぞ最新の捜査手法! 犯人を特定できる指紋鑑定! なんてやってるのと同様な、ぐるっと一周回って今読んでこその面白さがある。それはいいのだが、読み終えた感想は、なんだこりゃ??

 その他は全般的に低調であった。コメントを書きたいと思ったのは次の二編くらい。「細菌研究室(マイクの前にて)」はちょっとしたコントで、「血の悪戯」と同様のとぼけた味が私好み。「遺骨発見」は、書かれていない膨大な物語が背後に感じられる異様な優品。巻末解題でも触れられているが、香山滋を連想した。