累風庵閑日録

本と日常の徒然

『大はずれ殺人事件』 C・ライス ハヤカワ文庫

●『大はずれ殺人事件』 C・ライス ハヤカワ文庫 読了。

 安心して楽しく読める、ライス印の秀作。序盤は、単純なテーマのように思える。殺人予告を公言した人物が、その後実際に発生した殺人事件の犯人かどうか。ところが物語はたちまちのうちに発展し、拡散し、様々な人間と様々な過去の出来事とが絡む複雑な様相を呈してくる。

 全体のスピード感が素晴らしい。新婚のジェークが新妻ヘレンと二人きりになろうとするといつも邪魔が入るという繰り返しのギャグを散りばめ、登場人物達の軽快な会話とアクティブな活躍とが面白く、ぐいぐい読める。

 彼らの魅力的な造形も読み所。たとえば、すっかり意気投合したジョージとウィリスのオヤジコンビや、強面のギャングとして登場しながら実は真面目で仕事熱心、途中からすっかり気のいいニイチャン扱いされてしまうジョージィなんか。高性能の爆弾でも呑んでいるような気がする、テネシー特産の本場のコーン・リカーを携えて南部からやって来た、ララメイも忘れちゃいけない。

 結末での犯人を限定するロジックは、ん? と思わないでもないが、細けえことを気にするような作品ではないので、その辺りはどうでもいい。関連する、誰が犯人かではなく誰が犯人ではないかを示すロジックが、ちょいと面白い。