累風庵閑日録

本と日常の徒然

『サーカス・クイーンの死』 A・アボット 論創社

●『サーカス・クイーンの死』 A・アボット 論創社 読了。

 まず、主人公サッチャー・コルトの造形がしんどい。警察本部長の立場で部下や協力者を夜中にたたき起こし、あれこれ命令し、怒鳴りつける。容疑者、関係者に対しては尊大で強引。自らの知見や仮説を披露せず、同僚である地区検事長が間違った方向に進もうとしても放置する。何か手がかりをつかんでも、それに基づくディスカッションなど行わず、一人合点で捜査を進める。

 情報を共有せず、部下や協力者を振り回す社会的強者。組織の上長として、これはかなり困った人物像である。サラリーマン社会の面倒くささを追体験したくてミステリを読んでいるのではないのだよ。

 主人公が大きな警察組織を指揮する立場におり、なおかつ天才型名探偵であるというタイプのミステリが他にあるだろうか。たくさんありそうな気もするが、すぐには思い浮かばない。ロジャー・スカーレットなんかはどうだったか。本書は、そういうタイプのミステリの悪いところが出ているように思えてしまう。

 肝心の、ミステリとしての出来栄えはどうか。犯人の属性が伏線として実にさりげなく書いてある点にはちょっと感心した。メインの謎が、墜落の原因探しから始まってだんだんと焦点が変わってゆき、読んでいて飽きない。終盤、地下室のシーンの盛り上がりはなかなかの異様さ。

 だが、全体の読後感としてはどうも、もやもやする。解決部分に不満がある。(伏字)なんてのが飛び出してくるのを読むと、手がかりとロジックによる解決は作者の手に負えなかったようにも思える。以下、それ以外にもいろいろある具体的な不満を書いておくが、もちろん全て非公開。

 不満点のいくつかは私の読み落としかもしれないので、読み終えた方がおられたら解決部分に関して質問したいところである。