累風庵閑日録

本と日常の徒然

「赤屋敷殺人事件」

●横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第十六回として、昭和七年に雑誌『探偵小説』に掲載された、A・A・ミルン「赤屋敷殺人事件」を読む。作品自体を読むのはこれで三度目。過去の二回はあかね書房ジュブナイルと、創元推理文庫である。もちろん内容は綺麗さっぱり忘れている。創元版が約三百五十ページあるのに対し、こちらは二段組みとはいえ百ページほどしかない。かなりな抄訳ということである。

 で、読んでみるとこれがなかなか楽しい。抄訳のおかげか、展開がスピーディーで楽しい。探偵役のギリンガムもワトスン役のビルも明朗快活で、ふたりの掛け合いが楽しい。ギリンガムが一人で考えたりビルと話し合ったりで、事件についてあれこれ検討する様子も楽しい。

 ミステリならではの視点がいくつも出てきて楽しい。たとえば、遠回りして駆け足で急ぐ、幽霊の出る場所、扉の影の記憶、道路から遠い農園、一度探した場所は二度探さない、など。途中で気付いてしまったので意外さは感じなかったけれども、それでもきちんと用意された「意外な」真相を読むのは楽しい。

 さてお次は創元推理文庫をきちんと再読して、横溝正史が訳出においてどこをどう省いたのか、検証するのが望ましいアプローチであろう。だがさすがに、そこまでやる時間も気力もない。いつか気力が充実しているときの宿題としておく。