●『葬儀を終えて』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。
読むのは二度目。以前実家の本を整理したとき、既読のハヤカワ文庫が見あたらなかった。気になっていたところにクリスティー文庫が発刊されたので、新刊で買っておいた。それ以来積ん読だったのを、ようやく読んだ。事件の真相はシンプルで意外性十分なので、大体の所は覚えている。
で、真相を知ってから読む本書は、クリスティーの手練手管の上手さがよく分かって、実に面白い。傑作である。横溝正史は「推理小説は二度読むべし」という意見を持っていた。二度目を読むことによって、データの出し方、手法の良し悪し、作者の手腕如何が分かるのだという。なるほど、こういうことなのだ。
冒頭の台詞が強烈。「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」。そして直後の殺人。これで、物語世界がきっちり固まってしまう。クリスティーが、読者の鼻面をつかんで易々と引きずり回し始めるのである。
どこがどうとはっきりしないけれども、何かが変だというサスペンス。こういうのは好物である。とある伏線の、(伏せ字)という描写なんざ唸るほど上手い。割と早い段階で、その時点では主な登場人物の一人にすぎない犯人が、自らの価値観を問わず語りに露わにする場面がある。それと知って読むと、犯人の脳の奥深くにがっちりと食い込んで殺人の動機を生み出してしまう闇を感じて、なかなかの凄みである。