累風庵閑日録

本と日常の徒然

「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」第十七回

●横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第十七回をやる。

◆「休暇の快適な利用法」 レデイ・キチー・ヴインセント (昭和十年『新青年増刊』)
 「秘訣の秘訣」という枠で、次の「自動車の上手な買ひ方」と合わせて掌編集を構成しているようだ。といっても内容はユーモア小噺で、まるで秘訣ではない。他の作者の作品もこの枠に入っているかどうかは未確認。

 わずか三ページ少々の分量で、休暇の様々なバリエーションを面白可笑しく描いてみせる。訳者の遊びとして、日本の地名にイギリスの、おそらく有名な行楽地の振り仮名が付けられているのが面白い。たとえば鎌倉(トウケイ)、大船(ペンザンス)、戸塚(クローマー)といった具合で。

◆「自動車の上手な買ひ方」 レデイ・キチー・ヴインセント (昭和十年『新青年増刊』)
 こちらは二ページ少々しかない。自動車を買いに展示会に出かけて、販売係に翻弄されて上手とは程遠い買い方をしてしまう顛末。

◆「秘密の柩」 S・S・ゴードン (昭和十五年『新青年』)
 死んだはずの荘園相続人ジョージ・ハレイが、お尋ね者となって突如帰って来た。それまで荘園の主人として納まっていた従兄弟のゼームス・ハレイは、本来相続権が無かったということになる。ジョージは、事を秘密にしておく代償として毎年まとまった額の金を寄こすか、さもなくば懲役覚悟で正当な相続人として名乗って出て、お前を一文無しで荘園から追い出してやると脅迫してきた。

 型通りの展開ではあるが、ちょっと凄みのあるサスペンス。