累風庵閑日録

本と日常の徒然

『瓢庵先生捕物帖』 水谷準 同光社磯部書房

●『瓢庵先生捕物帖』 水谷準 同光社磯部書房 読了。

 面白い。名作、傑作、といった種類の面白さではないけれども。ユーモアと言うより洒落っ気と言った方が似合いそうなとぼけた可笑しさと、意外なほど濃厚なミステリ趣味とで、すいすい読める。その味わいは若さま侍シリーズにも通じるものがある。読んでいると酒を飲みたくなるのも若さまシリーズと同様。

 論創社の『水谷準探偵小説選』で既読の作品が多いが、再読でも十分面白い。それらの感想は以前の日記に書いたので、初読作品にだけコメントを書いておく。

「棺桶狸囃子」
 大怪我をした大将狸の治療を請われた瓢庵。連れていかれたあばら家では、大男が鉄砲傷で苦しんでいた。なにやら胡乱な集団のようだが、あくまでも我々は狸だという態でいる。瓢庵も相手が狸であるという態で接してやったあげく、治療費代わりの酒で大酔する。両者の腹芸が可笑しい。

龍神使者」
 瓢庵が意識を失っているうちに連れ込まれた、善美を尽くした屋敷。ここはどこだと尋ねると、なんと龍宮だという。そんな馬鹿げた状況でも、出された酒食を大いに堪能する瓢庵。呑気でとぼけた味わいが嬉しい。真相も、ありがちではあるがちょいと気が利いている。

「噴泉図」
 なんとコン・ゲーム小説。道楽息子が勝手に持ち出して売ってしまった逸品「噴泉図」を、抜目のない大阪商人から取り戻せ! 口が変わって新鮮である。

「紫頭巾」
 瓢庵先生が、収録作中で最もストレートに探偵役を務める佳品。死体が握っていた根付は、かつて瓢庵の持ち物だった。関わり合いを嫌った先生は、人形佐七に出馬を仰がず自ら事件に取り組むことに。きっかけとなった根付から推理を巡らせる展開がスマート。佐七の名前が出てくるが、論創社では「言及のみの作品は除く」として収録されなかった作品である。

「天狗騒動」は、柏の葉っぱに記された、天狗からのメッセージに込められた趣向にちと感心。

●書店に寄って本を買う。
シャーロック・ホームズ語辞典』 北原尚彦 誠文堂新光社
 「横溝正史」の項目もある。その部分の記述に目を引かれた。

 昭和七年から八年にかけて改造社から出たドイル全集には、横溝正史訳と表記されている巻もある。ところが、扶桑社文庫『横溝正史翻訳コレクション』の記述によれば、実際に訳したかどうかに疑義があるそうな。この件に関して本書では、ドイル全集は名義貸しであったことを正史自身が証言していると書いてある。何かの随筆で触れられているのだろうか。情報元を知りたいところである。

楽天ブックスに、捕物出版のオンデマンド本を注文した。三~七日かかるというから、遅くとも来週後半には入手できるだろう。駄洒落ではないが、本当はhontoに注文したかったのだ。だが、hontoのラインナップがいつまで待っても更新されない。とうとうしびれを切らして、楽天ブックスに注文してしまった。