●『北洋探偵小説選』 論創社 読了。
気に入った作品にコメントを付ける。
「失楽園」
戦前探偵小説のような読み口が吉。巻末解題によればメインのネタが斬新だということで称賛されているようだが、海野十三のアレは違うのだろうか。
「無意識殺人」
ブラックな味わいの落語のような、奇妙な可笑しさ。
「死の協和音」
真相よりも、別の人物が犯人に擬されたときの想定動機の方が興味深かった。複数の人物が次々と容疑者にされてゆく展開は目まぐるしくて敢闘賞ものだが、どうにもこうにも駆け足なのが残念。時代的な制約としてやむを得ないことだろう。
「アトム君の冒険」
年少読者向け科学読み物だが、意外なほどジュブナイルミステリとしての体裁が整っていて、結局本書ではこの作品が一番面白かった。作者のあとがきによれば「科学のファンをつくるために書かれたので、いわゆる物識りをつくるために書かれたものでない」そうな。
核反応に関する啓蒙書としても、十分におっさんが読むに堪える。電子、陽子、中性子…… 頭の中の久しぶりに使う部分を使った気がする。
ついでに書いておくと、放射性物質の扱いに時代が感じられて興味深い。主人公のアトム君に普通に持ち歩かせたり、なんと砂糖に混ぜて飲ませたりする。