累風庵閑日録

本と日常の徒然

『細い赤い糸』 飛鳥高 講談社文庫

●『細い赤い糸』 飛鳥高 講談社文庫 読了。

 論創社から近日復刊と聞いて、いい機会だから読んでみた。なるほど、こりゃあ傑作である。構成で読ませるタイプなので、中身については何も書かないけれども。裏表紙の粗筋を読まず一切の事前情報を遮断して手に取ると、作品の趣向が見えてきた時点で、おっ、ほほう、そうくるか、と思う。終盤の、全体を覆っていた意味不明の霧が晴れて結末の一点に向かって収束してゆく勢いがお見事。

 作者の意図しない、個人的な読み所もある。昭和中期の庶民生活の種々が、今読むと興味深い。昭和時代を二十年毎に前期中期後期に分けると、私は後期頭の頃の生まれである。家が九州の田舎だったので、時代の動きが東京より遅れてもいただろう。ここに書いてあるような様相の片鱗というか残り香というか、そういったものの記憶がある。いろいろ思い出してしまう。