累風庵閑日録

本と日常の徒然

『キングとジョーカー』 P・ディキンスン サンリオSF文庫

●『キングとジョーカー』 P・ディキンスン サンリオSF文庫 読了。

 中盤までは、架空の英国王室を舞台にしたホームドラマ。一応、何者かがいたずらを繰り返すという小事件は最初から起きているのだが、扱いは軽い。主人公格であるルイーズ王女の視点で、日常生活のあれこれや両親との関係、大小の悩みや葛藤などが語られてゆく。外部的な起伏は乏しいが、登場人物の内面や人間関係は大きく揺れ動き、読んでいて退屈はしない。

 やがていたずら者(ジョーカー)の振る舞いはいたずら(ジョーク)の範疇を超えてゆき、恐るべき犯罪を仕掛けてくる。そうやって事件の側面で物語が動き出すのと並行して、登場人物の造形も深みを増してゆく。(文章ひとつ伏字)。また真相を(伏字)だというのも、意外で面白い趣向である。事件のスケールが大きく密度が高く、人々の想いも記憶も濃密で、読み応え十分であった。