累風庵閑日録

本と日常の徒然

「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」第十九回

●横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第十九回をやる。今回は、博文館世界探偵小説全集第六巻『ヒユウム集』に併録の七編のなかから、読み残していた四編を読む。

◆イリス・パーカア・バトラア「アモス・ホプストン」
 殺し合いを続けているホプストン家とギブスミス家。アモスはホプストン家の最後の生き残りである。ある日、系図調査を仕事にしている語り手ウイルモットのところへ、アモスが訪ねてきた。ギブスミス家を完全に根絶やしにするために、自分が把握していないギブスミス家の一族を探し出してくれとの依頼である。だがアモスは無一文なので、調査報酬を払うことができない。そこでウイルモットは、アモスを友人であるスミス家に下男として斡旋し、その給料を調査報酬として受け取ることにした。

 奇妙な誇張があちこちにあるし、展開も極端である。これってもしかしてナンセンス小説なのだろうか。結末はどうも生ぬるい。そこで捻りや切れ味がなくてどうする、と思う。全体として、どう受け止めればいいのかしっくりこない作品。

◆エル・ジエ・ビーストン「マーレイ卿の客」
 決闘家倶楽部での出来事。マーレイ卿の秘書カーバートンが、重要書類を盗んだとしてヘーラスを告発した。ところがヘーラスは、カーバートンこそが書類を盗んだのだと逆に告発してきた。二人は倶楽部の規定に従い、負けた方が全ての罪を引き受けた告白書をマーレイ卿に出すという条件で決闘を行うことにした。

 アイデアの根っこは安易なものだが、結末に至る変転はちょっとしたもの。

◆リチャード・コンネル「痴者の犯罪」
 ヘンリー・ゲードはついに、雇い主であるバートレットを殺す決心をした。自らと引き比べてバートレットが成功者であることに、殺したいほどの嫉妬を感じたのである。結末は皮肉でもあり哀れでもあり。

◆無署名「実験魔術師」
 主人公のノリス君、安食堂でアメリカの大富豪シルバーと、実験魔術師と自称するホルトと知り合いになる。ホルトは精霊体離脱を経験しないかとノリスを誘い、ノリスは詐欺を暴いてやろうと誘いを受け入れることにした。

 シリアスなトーンで書けばいっぱしの怪奇小説になりそうな題材だが、登場人物が皆どこかしら間が抜けているせいで、ズッコケほら噺になっている。