累風庵閑日録

本と日常の徒然

『傑作短編集』 伊藤秀雄編 ちくま文庫

●『傑作短編集』 伊藤秀雄編 ちくま文庫 読了。

 明治探偵冒険小説集の第四巻で、副題が「露伴から谷崎まで」としてある。オーソドックスな探偵ものから時代物、さらには怪談咄まで、意外なほどバラエティがあって飽きない。馴染みのない明治の文章は、たまに読むなら味わいが変わって新鮮である。

 幸田露伴「あやしやな」は、なかなかの快作。殺人トリックが面白い。警察署長が真相に気付くきっかけが奇天烈。まさかの(伏字)小説になるかと思えばそこからもうひと捻りある。

 作者不詳の「名人藤九郎」は、名刀に魅入られた異常心理ネタ。改行が少なく活字がページを埋め尽くしているが、展開は意外なほどスピーディーで読みやすい。偶然を活用した、複雑な人間関係も読み所。

 谷崎潤一郎「秘密」は、冒頭の隠遁嗜好もいかにも戦前探偵小説らしい都市綺譚の味わいも、どちらも好物で嬉しい。姫山「指の秘密」は、クリスマスイブの善意の物語が急転する、その落差が甚だしい。