累風庵閑日録

本と日常の徒然

『芥川龍之介 妖怪文学館』 東雅夫編 学研M文庫

●『芥川龍之介 妖怪文学館』 東雅夫編 学研M文庫 読了。

 十二月から細切れに読んでいたのを、ようやく読了。怪奇小説作家としての芥川龍之介に焦点を当てた作品集である。小説の部/怪異篇では、怖さや奇怪さを前面に出した作品より、想像を刺激する不気味さを帯びた作品の方が気に入った。「黒衣聖母」は、聖母像の顔に浮かぶある悪意を帯びた嘲笑、というのが不気味。「奇怪な再会」は、少しずつ少しずつ異質なものが日常に入り込んでくるのが不気味。

 小説の部/伝奇篇では、まず「邪宗門」。こりゃあ面白い。主人公堀川の若殿がカッチョイイし、法術競べなんてな展開が熱い。さあこれから、さながら隆慶一郎夢枕獏か、というところでの未完がなんとも残念。「金将軍」は、わずかなページ数のなかに妖術バトルが詰め込まれていて、濃い。題名は挙げないが、中国を舞台にした某作品は曖昧で唐突な結末がいかにも志怪小説のようで、こういう味は好みである。

 評論・随筆の部では、「猪・鹿・狸」でわずか三行触れられている綺譚が魅力的。通りすがりに見かけた人物が、近寄ってみると男だか女だか、前向きだか後ろ向きだかさっぱり分からないという。起承転結がまるで無いのが、かえって味になっている。

 怪談実話の部では、芥川龍之介が学生時分に蒐めた怪談をノートに書き溜めておいたという「椒図志異」が秀逸。そこに記された物語の数々は、素朴で不気味で、妙に生々しい。