全体の半分近くを占める鯱先生のシリーズが楽しい。和製ルパンを標榜しているそうで。怪盗と探偵とを兼ねた陽性の主人公は、なるほどルパンである。彼とその乾分山猫との掛け合いが、銭形平次と八五郎のような愉快な味があって楽しい。ルパンにはレギュラー格の相棒や部下はいなかったようで、その点ではこちらの方が上だと思う。
ミステリの面白さのエッセンスを、単純素朴に表している真相が楽しい。悪く言えばありきたりで他愛ないのだが、なんともオーソドックスな味わいがルパンに通じるものがある。
そして、とにかくトリッキーな事件の数々が楽しい。密室殺人、人体発火、雪上に足跡のない失踪者。極め付きは「羅生門の鬼」で、被害者は見えない手に遥かな高みにまで吊り上げられた挙句に墜死するのである。
前半の長編「赤い襟巻」は、犯罪であると確証が見いだせない死亡事件を扱っているのが面白い。だが、主人公自身がただの事故かもしれないと疑心暗鬼に陥るようでは、伝わってくるサスペンスがちと弱いけれども。全体の構成と真相とはよく考えられていて意欲的で、その点で十分満足。
「獺峠の殺人」は、多くのネタと捻りとを盛り込んであって、なかなか秀逸。