累風庵閑日録

本と日常の徒然

『七十五羽の烏』 都筑道夫 光文社文庫

●『七十五羽の烏』 都筑道夫 光文社文庫 読了。

 都筑道夫コレクションの本格推理篇である。初収録のなめくじ長屋シリーズ二編は以前先行して読んでいるし、他の収録作は全て別の本で読んでいる。結局今回は収録の全作品が再読ということになる。

 メインの長編「七十五羽の烏」は、大量の伏線が巧妙にちりばめられて、解決へ至る筋道がきちんと整い、犯人を指摘する手がかりがシンプル。ミステリにあって欲しい要素が高水準で揃っており、満足度はかなり高い。真相はちょっと残念なタイプだけれども、それは私の好みの問題であって質の問題ではない。

 六篇収録された短編のうちでは、特に退職刑事シリーズの二編、「写真うつりのよい女」と「四十分間の女」とが気に入った。密度の高さがお見事。ひとつの条件からひとつの結論を導くステップが幾つも連なり積み重なり、しかもそれぞれのステップが意外でもあり納得感十分でもある。