累風庵閑日録

本と日常の徒然

『憑りつかれた老婦人』 M・R・ラインハート 論創社

●『憑りつかれた老婦人』 M・R・ラインハート 論創社 読了。

 どこからともなく部屋に侵入する蝙蝠や鼠、ひとりでに開くクローゼットの扉、いきなり鳴り出すシャンデリア、なんて道具立てにもかかわらず、怪奇色は薄い。一族内のごたごたの方が前面に出ているようだ。力点が違うのである。

 力点が違うと言えば真相へのアプローチも、なるほどそういうスタイルなのか、と思う。主人公の探偵役ヒルダ・アダムスは、多くの伏線を拾いつつ事件の真相をパットン警視に語って聞かせる。(以下、この段落非公開)

 いわゆるHIBK派の元祖ということだが、この流派によく見られる、私の苦手な要素はほぼ無い。後続のフォロワー達と元祖とではやはり違うということか。上記のように伏線たっぷりな点は読み応えがある。犯人設定も意外性の演出も(伏字)で、作者のやりたかったことが好ましい。非公開部分で書いた無いものねだりをしなければ、まあ満足できる。

 以下、余談。巻末の訳者あとがきに、国内ミステリでは横溝正史の「犬神家の一族」がHIBKパターンの代表作では、と書いてある。「犬神」をそのような観点で考えたことはなかった。妥当性はひとまずおいて、意外な視点ではある。

●お願いしていた冊子が届いた。
『弓削検事の実験』 伊東鋭太郎 湘南探偵倶楽部
 同時発売の他の作品は、手持ちの本で既読なので買わなかった。