●『藤村正太探偵小説選I』 論創社 読了。
楽しめた作品とそうでないのと、わりとはっきり二分できる作品集であった。駄目な方は、ページ数と内容とのバランスが取れていないようだ。材料を盛り込み過ぎて処理しきれていないのである。まるでマニアさんが熱に浮かされて勢いだけで書いたみたいだ。
以下は気に入った方の作品。
「黄色の輪」詳しくは書けないが、落差にちょいと感心した。
「筈見敏子殺害事件」は、他の作品のようにこれでもかと材料を盛り込まず、シンプルなネタのおかげですっきりとまとまっており、好感が持てる。
「断層」は、途中で提示されるある情報は面白いが、真相はまるでピンとこない。それよりもこの作品の注目点は、終盤(P263)における横溝正史の某代表作品とそっくりな書きっぷりにある。文の構成要素があまりにも似ていて、笑ってしまった。
「その前夜」は、収録作中で最も面白かった作品。巻末解題に引用されている評では割と否定的である。ミステリとして捉えると概ね妥当な評価だとは思うが、面白く感じてしまったのだからしょうがない。現実を観ず思考を停止して狂信的にわめきたてる者の愚かさと、己の器に余る大任を背負わされてねじ曲がってしまった者の哀れさと。なんとも人間臭い造形が胸に迫る。
「法律」は動機が面白い。