累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ブラック・マネー』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫

●『ブラック・マネー』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫 読了。

 リュウ・アーチャーは銀行家の青年から、フィアンセを奪った謎の人物の身元調査を依頼される。アーチャーが動き回るにつれて、多くの人々の過去から現在に渡る複雑な関係がじわじわと見えてくる。この、じわじわと、ってのが好みに合っていてなんとも面白い。ページがぐいぐい進む。人物の個性もしっかりしていて、たとえば依頼者ピーターの、とにかく物を食べずにはいられない衝動なんざなかなかの造形である。

 犯人はかなり意外だが、ミステリとしての意外性の演出が上手く機能しているわけではない。えっ、そっち? という意外さである。途中経過は申し分ないし全体としても読み応えは存分にあるが、ミステリを読んだカタルシスにはちと乏しい。犯人が(伏字)するってのは、ロスマクらしいと言えばらしいけれども。