累風庵閑日録

本と日常の徒然

『悪魔の山』 高木彬光 神月堂

●『悪魔の山』 高木彬光 神月堂 読了。

 私家版の、単行本未収録ジュブナイル集である。いい歳したおっさんが読んで面白がれる内容ではないが、こういうのはまず読めるということ自体に価値がある。

 内容が他愛なくとも、展開の速さは味わうべきポイントと言っていい。そもそもページ数が少ないし、子供向けなので冗長な情景描写なんてやってられないだろう。冒頭とにかく速やかに、奇怪な事件が突発するのが読み所。

「呪いのホテル」は内容よりも、大人向け作品との関連が興味深い。こういう(伏字)ネタは好物である。「ポプラ屋敷の秘密」は、怪人の造形の理由がちょっと面白い。「巨人の復讐」は、冒頭の怪奇性がお見事。

「湖の悪魔」もちょいと興味深い作品。同じネタを翻訳ミステリで読んだことがある。記憶が曖昧なので調べてみると、C・D・キングの短編が該当した。戦前に『新青年』に訳載されたこともあるようで。興味深いことである。そして表題部分に添えられている扉絵がネタバレ。

「道化仮面」は、読売新聞の地方版にしか掲載されず、国会図書館にもないという珍品。某県立図書館には原本が保存されていて、少なくとも十数年前までは一般閲覧者がコピーを取ることができた。資料の劣化なんて可能性があるから、現在もコピーできるかどうかは分からない。ポイントは、挿絵。本書には挿絵は収録されていないが、何しろ絵物語なのだから、本来は挿絵も含めての作品である。

●お願いしていた本が届いた。
『混血児ジュリ』 山本周五郎 湘南探偵倶楽部
『金貨を咥えた女』 大下宇陀児 湘南探偵倶楽部