今回のフレンチは少々趣が違うようだ。なにしろ初手は私的な立場で、事件が起きた地元警察と対立する見解でもって捜査に当たるのである。結末部分でも(伏字)かったし。
地元警察はトニー青年を逮捕するが、それが冤罪だということは読者には分かっている。彼の無実を信じる、姉シシリーと恋人グレースの活躍が光り、フレンチは一歩後ろに引いた感がある。
全体としては安心安定のクロフツ印。堅実な内容が好みにピタリ合っていて、読んでいて楽しい。簡素なものではあるが電気回路が挿入されているといった技術志向が、いかにもこの作者らしい。
●お願いしていた本が届いた。
『悲しい毒』 B・コッブ 論創社。