「真赤な子犬」
読者は真相を知っている序盤の事件。そこに奇妙な異物が混入する。それが真赤な子犬である。子犬が物語全体でどういう役割を果たすのかはっきりしないまま、事件は次第に捻れてゆく。
中盤までは平熱で読み進める。なにしろ真相はほぼ分かっているのだから、警察やその他登場人物が真相を求めて右往左往する様を読んでもあまり気分が盛り上がらない。で、読了後の結論としては満足。なるほど、そういう仕掛けか。
「内部の真実」
個人が否定される軍隊組織の中で、個人としての殺人犯を探す取り組み。一度組織から犯人だと認定されてしまえば、たとえ冤罪だろうとなんだろうと虫をひねりつぶすように処分されてしまう。そんな状況で被疑者がくるくる変わってゆくのが、ひりひりするような緊迫感である。
被疑者ばかりではなく、登場人物の立ち位置も相互の関係も、視点人物も探偵役までもが様々に変わってゆく。それが展開の意外さを産み出している。
同時収録の三短編はどれも佳作。意外な展開の「水と油」、予想外のアクション小説「屍体輸送車」、物事のつながりが意外な「太陽はゆがんでいた」。
●お願いしていた本が二方面から届いた。
『孤島の花』 香山滋 盛林堂ミステリアス文庫
『馬匹九百頭』 M・D・ポースト 湘南探偵倶楽部
『醫師殺害事件』 G・シムノン 湘南探偵倶楽部
『雪の悪戯』 O・A・クライン 湘南探偵倶楽部