●『悲しい毒』 B・コッブ 論創社 読了。
おお、これこれ、ってなもんである。これぞミステリの面白さ。十個のカクテルグラスがその時どこにあったのか。バーマン警部補はグラスひとつひとつについて丹念に聞き取り調査を重ねてゆく。毒の入ったグラスが明らかになったら、今度はそのグラスが置いてあったテーブルにいつ誰がどんな順番で近づいたのか、またもや丹念に追及する。
その辺りの展開に起伏無しサスペンス無し。それでも、あるいはだからこそ、状況が一歩一歩明らかになってゆく過程がすこぶる面白い。いい加減に読み飛ばしていると全体をまるで把握できなくなるので、メモを作りながら読んだ。
屋敷の主ルパートの造形が、不愉快で言葉が薄っぺらで、なんとも人間臭い。結末の意外性の演出は、そうこなくっちゃあ、と思う。真相解明部分の書きっぷりも好ましい。以上諸々のおかげで、満足である。